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2021年 三村会頭・年頭所感~逆境のときこそ、力を尽くす~

 明けましておめでとうございます。
 2021年の新春を迎え、謹んでお慶び申しあげます。
 さて、昨年1月にわが国で初めての新型コロナウイルス感染者が報告されてから、早くも1年が経とうとしています。コロナ禍にあっても、今なお必死に経営努力を続けておられる皆さまに深く敬意を表するとともに、われわれ全国515の商工会議所は、今年も一丸となって事業者の皆さまと地域経済の発展のために力を尽くしてまいります。
 さて、わが国経済全体は、緊急事態宣言が発令された昨年4-6月期のGDPがリーマンショック時を超える戦後最大の落ち込みを記録した後、7-9月期には持ち直しの動きへと転じました。しかし、秋以降に再び感染が拡大する中、その後の回復に向けた足取りは依然として重いままです。
 一方、コロナ禍を通じて、政府・民間を含めた国全体としてのデジタル化の遅れ、過度な大都市集中のリスクと適切な地方分散化の必要性、危機下における医療提供体制のあり方、中央と地方の権限分担のあり方など、日本の多くの課題が浮き彫りとなりました。また何よりも「強く豊かな国でなければ国民を守れない」ということに皆が気付いたのではないでしょうか。激甚化する自然災害、新たなパンデミック、地政学上の混乱等は今後も起こり得るものであり、わが国がそのような不確実性の中を生き抜いていくためには、不確実性を吸収できるバッファとしての「戦略的ゆとり」が不可欠であります。
 昨年の菅政権発足以降、私は政府に対してこの「戦略的ゆとり」を持つ必要性、またそのためにも経済成長が欠かせないものであることを訴えてきました。経済成長は労働投入×資本投入×全要素生産性で定義されます。これまでの深刻な人手不足の中で、女性や高齢者など労働参加が大いに進みました。しかしさらなる労働参加率の向上には限界があり、将来不安により消費が伸び悩む中では国内での新たな設備投資による資本蓄積も多くは望めません。従って、わが国の経済成長のためには、残る「生産性の向上」が必須なのです。
 一国の生産性は「一人当たりGDP」で表されますが、日本は2018年時点で世界第31位に甘んじています。「一人当たりGDP」は国民一人当たりの豊かさだけでなく、効率的に働き得られた余暇を人との繋がりに充てることで、幸福度を向上させる指標にもなることから、私はこれを日本の新たな国家目標に据え、その引き上げのために皆で知恵を絞り、汗をかくべきだと考えます。
 日本全体の生産性向上のために、商工会議所は、以下の3点に取り組んでまいります。第一は、コロナ禍への対応支援です。環境変化に対して、柔軟に素早く対応できることが中小企業経営者の強みであり、コロナを契機として新製品やサービス開発、業態転換、EⅭ等も活用した国内外への販路開拓などに積極果敢に挑戦する経営者を、しっかりと後押ししてまいりたいと思います。
 第二は、デジタル化を通じた生産性向上です。コロナ禍で初めてテレワークを体験し、デジタル技術の有用性に気付いた経営者も多いと思います。また、国や地方公共団体が今後デジタル化を進める中で、民間企業側もそれに対応していく必要があります。まずは身の丈に合った、低コストで利用可能なIT導入から始め、徐々にステップアップするなど、IT導入補助金等の支援策もフル活用し、中小企業のデジタル化を推進してまいります。
 第三は、取引適正化です。大企業と中小企業が強固に結び付いた日本経済の強さは、大中小の石が組み合わさって風雪に耐える「石垣」に例えられてきました。しかし、その石垣も修復、再構築する時期に来ています。サプライチェーン全体のデジタル化により効率性を高め、コストアップや付加価値をフェアに分け合い取引価格の適正化を図る「大企業と中小企業の新たな共存共栄関係」の構築が必要です。商工会議所は、この趣旨に賛同した企業による「パートナーシップ構築宣言」の宣言企業が1,000社を超えるよう、積極的に後押ししてまいります。
 加えて、本年いよいよ開催が見込まれる東京オリンピック・パラリンピックを、復興五輪であると同時に、感染拡大防止と社会経済活動を両立させる具体的なプロジェクトとして位置付け、国民運動を盛り上げていきたいと考えております。
 最後に、近代日本資本主義の父であり、東京商工会議所初代会頭の渋沢栄一翁は、関東大震災の混乱の渦中にあっても「逆境のときこそ、力を尽くす」自らの信念によって、晩年にあってなお、わが国を立て直すべく精力的に奔走されました。渋沢翁の意志を受け継ぎ、今年も日本商工会議所は全国のネットワークを最大限活用し、中小企業と地域の発展、日本経済の再生に向けて、先頭に立って頑張ってまいります。皆さまの多大なるご支援、ご協力をお願いし、私の年頭あいさつとさせていただきます。