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輸入手続き規制を巡る動向と、 重要性を増すインドネシア(インドネシア)

1.  輸入手続き規制の動向について

 2023年の新たな年を迎え、今年こそとコロナ禍からの回復に各社が走り出している中、残念ながら1月1日以降、鉄鋼や樹脂などの複数の製品分野で輸入許可手続きが止まった。

 

 昨年来、インドネシア政府が国策として推し進める国産化政策の一環として、また実質的には新たな輸入管理政策として機能する、「商品バランス」政策の導入が昨年アナウンスされた。ジャカルタジャパンクラブ(以下、JJC)でもジェトロと共同で企業に対応の呼びかけを行い、日系各社でも自社が必要とする輸入枠の申請を行った。ところが今年に入り、各業界を所管する工業省や商業省などが、具体的な「商品バランス」(国全体の国内需要に対する国内供給の不足分を輸入枠とする考え方)の算出が実際にはできず、輸入枠の許可も下りていない状況に陥った。

 もちろんJJCでも、関係する複数の委員会が、昨年初めから情報収集やジェトロと共催でセミナーを開催し情報提供を行ったり、日本国大使館と連携し関係省庁への申入れなどに動いてきた。さらに、他国(米国・EU・韓国)の商工会議所と連携して大臣へのレターなども発出している。

 こうした活動の結果、新たな申請システム自体は使用を継続しつつ、ただし算出できていない「商品バランス」の数字は使わずに、出来る限り早期に許可を出すよう、本政策の旗振り役である経済調整府から関係省庁に指示がされ、2月後半から輸入許可が順次下りるようにはなった。

 

 しかし、まだ大きく2点の問題が残っている。

 第1に、許可される数量が年間申請数量に対し30%~50%にとどまる例がみられるなど、数か月で枠を使いきる可能性が高いものの、削減の理由は明らかにされておらず、また、現行法令では年度途中での再申請の仕組み自体が用意されていない。

 第2に、商社(インドネシアの分類でAPI-Uの企業)については、特別な場合を除いて基本的に原材料輸入を許可しない方針が示されている。これはインドネシア政府の商社に対する見方を反映したものであるが、ジャストインタイムなどの日本企業が築き上げてきた生産システム、サプライチェーンへの影響が懸念される。インドネシア政府は特に自動車関連産業についてはAPI-Uにも輸入を許可するとコメントしているが、具体的には政令改正等が必要と見られており、解決にはなお時間を要する。
 こうした状況が改善しない場合に影響として最も懸念されるのは、サプライチェーンの棄損である。例えば、鉄鋼製品は、この国の社会経済、そして外貨を獲得する輸出製品としても重要な自動車の生産に必要不可欠な原材料である。事態が打開されなければ、数か月以内に自動車生産に影響が出てくるとの見方もある。

 

 国産化の推進そのものはインドネシアにとって必要なものであり、多くの日系企業が工場進出等によりこれに貢献してきた。原材料輸入が止まれば、戦略的な輸出産品である自動車生産が止まり、獲得できるはずの外貨収入を失うことになり、その損失はインドネシアの国にとっての損失となりかねない。生産のために必須となる原材料等の輸入許可手続きが円滑に進んでこそ、インドネシア国内での生産活動や輸出も活性化する。日本の官民で連携し、外国とも協力しながら早期の解決を引き続き働きかけたい。

 

 

2.2023年の日・インドネシア関係について

 上記のように、インドネシアの経済運営や投資環境としては難しい問題が見られるのは確かである。それでは、日本はインドネシアを完全に離れて別の国を投資先・連携先として選ぶべきなのか。

 さにあらず。PwCの報告によれば、2050年にはインドネシアは世界4位の経済規模となっている。その時の日本は第8位である。この報告が正しければ、日本にとってインドネシアは将来の「格上」かもしれない。インドネシアは約3億人の若い人口を抱え、豊富な天然資源を有しており、また安全保障環境も安定していることから、よほどのことがない限り、成長が約束された国であると言える。

 

 昨年は、G20議長国を途上国としては初めてインドネシアが務め、ウクライナ危機で世界が割れる難しい状況下にあっても、比較的中立的な独自の立ち位置を確保しつつ、共同声明をまとめるなど外交手腕を発揮した。イギリスの「Financial Times」は、インドネシアを “Overlooked Giant”(見過ごされた巨人)と表現した。

 金杉憲治駐インドネシア大使は現地紙への寄稿でこの点に触れつつ、「しかし、日本はもともとインドネシアの重要性が分かっていたからこそ、企業はインドネシアに投資を行い、日本政府は政府開発援助(ODA)に力を入れて来た」と述べた。まさにその通りである。

 

 今、日本勢として重要なことは、いくつかの競争相手が現れている中で、インドネシアの成長を日本企業と日本の成長機会として取り込むことである。さらなる成長を望むインドネシアに寄り添い、協力できる分野を拡げていくことが、1社1社にとっても、国にとっても重要なことであると日々現場で感じている。

 

 (ジャカルタ ジャパン クラブ 事務局長 小倉 政則)