【海外最新事情レポート】シンガポール建国記念行事を体験して（シンガポール）

　シンガポールは1965年にマレーシア連邦から追い出される形で独立して、今年で建国57周年を迎えた。コロナ関連制限が徐々に解除されるなか、国をあげての建国記念行事も３年ぶりに大規模に開催された。

　建国記念のイベントは主に２つある。８月９日独立記念日に行われるNational Day Parade（祝賀式典）　とその２週間後の日曜日である８月21日に行われるリー・シェンロン首相によるNational Day Rally (施政方針演説)である。３月に赴任した新参者として、シンガポールとシンガポール人への理解を深めるために、体験してみた（両方ともテレビ鑑賞ではあるが）。

 

　まず、National Day Parade（祝賀式典）について

 

▲National day Parade をテレビ観賞　（筆者撮影）

 

　マーライオンやマリーナベイサンズなどが立地するベイエリアに設けられた大きな舞台と観客席がメイン会場となり、３時間に渡り、壮大な軍事パレードや航空ショー、各民族の歌や踊りのパフォーマンス、そして最後に、マリーナベイの煌びやかな景観を背景に展開される花火ショーを、事前の観覧抽選に当たった25,000人の国民（永住者含む）がヤコブ大統領、リー首相、国家議員の皆さんと一緒に楽しんだ。

　当日は、シンガポール人の友人に誘われ、地元ルールに従い、国旗の色である赤と白の服を着て、会員制クラブのバーの大型スクリーンでテレビ中継を見ながら、シンガポール57歳の誕生日を祝った。バーのお客さんが一緒になって国歌を斉唱するシーンと、式典のテーマソング「Stronger Together ! MajulahSingapura （マレー語：進め、シンガポール）!」がとても印象的だった。

 

　そして、２週間後のNational Day Rally (施政方針演説)について

 

 

 

▲National Day Rally （首相府HPより）

 

　毎年、首相が国民に向けて、公用語の英語、マレー語、中国語で、国の課題、政策変更、経済発展の成果及び計画を発表する重要な演説である。祝賀式典の時に、友人に「建国の父、リー・クアンユーが始めた伝統だ。ぜひ聞いてください」と強く勧められたので、演説が始まる日曜日の夜７時前から、「同じ内容を３言語で話すより、英語に字幕を付けた方が効率いいのに。合理的なシンガポールらしくないなぁ」とちょっと疑問を持ちながら、テレビの前で待機した。

 

　実際聞いてみると、時間を忘れてしまうほど聞き入ってしまった。それぞれの言語での演説は、かける時間も異なり、それぞれ違うポイントをおさえた内容となっていた。

　まず、マレー語からスタートした。マレー・ムスリムの国民に向けた17分間のメッセージではコミュニティと人物の実例を加えながら、コロナとの戦いを振り返り、国民への感謝と称賛があふれた。

　次に、21分間の中国語メッセージは、実に盛り沢山の内容だった。ブースターワクチン接種の呼びかけをしてから、「地政学的な挑戦」、「文化の継承」、「経済の挑戦」、三つのテーマで、人口の７割以上を占める中華系国民に訴えた。「力による統治への反対をはっきり表明しないと、小さな国であるシンガポールは侵略された場合は、誰も支持してくれなくなる」と、アセアンの中でいち早くロシアのウクライナ侵略を批判したシンガポールの立ち位置と考え方を説明。また、中華系国民は中国にルーツを持ちながら、シンガポールへ根付き、新たに文化の融合と創造に努めてきたことを評価。そして、昨今の生活費の上昇に対し、総額１億8,000万ドルに上る地域限定の商品券発行や高齢化社会へ対応するための消費税引き上げの理由を分かりやすく説明した。

 

　そして最後に行われた１時間10分にわたる英語での演説は、ここ２年あまりのコロナ対応の総括からスタートし、世界の情勢（米中の緊張関係を中心に）、近々の法律改定（植民地時代から続く男性間の性交渉を違法としている刑法条項の撤廃を表明したと同時に、結婚は男女間のものと憲法に明文化する方針を明らかに）から、今後数十年先の港湾・空港・公営住宅などの発展計画まで、未来に向けて、シンガポールのビジョンと夢を示し、国民に理解と信頼、団結と努力を求めた。

　雄弁でありながら近所のおじいさんのような、優しい語り口で、強いリーダーシップを存分に発揮したリー首相。思わずファンになってしまった。

 ▲National Day Rally （首相府HPより）

 

　来年の８月も、この二つの記念行事を楽しみにしている。

 

（シンガポール商工会議所 事務局長 梁 瑜）