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【海外最新事情レポート】上海の厳しいコロナ対策(上海)

上海のコロナ感染状況

 現在の中国のコロナ感染者は驚くほど少ない。人口が約2,400万人の上海市では8月20日に2名、21日に3名の新規感染者が確認されて以降、市中での感染は確認されていない。一方で、国際線の航空便を受け入れている浦東空港では隔離施設への移動後も含めて、日々数名の感染者が確認され、現在感染していると診断されている人数は100人を少し超えたところである。これは輸入型感染と言われ、市中感染とは区別される。市中感染に対して、輸入型感染は空港到着時から国内線などの利用者とは完全に導線が分離されており、水際対策としては成功していると言えよう。

 

水際対策は区政府対応浦東空港で隔離ホテルの指定を待つ到着客.jpg

 空港到着後にPCR検査を受け、スマートフォンの登録確認などは成田空港での日本入国とあまり違いはないが、PCR検査の結果を待たずに各区政府が指定する隔離ホテルに専用バスで直行となる。入国後の隔離は、上海市の場合には中国人、外国人を問わず自宅のある区が責任を持って管理することになっている。区政府の若手スタッフが空港での入国者の確認、隔離ホテルの振分け、移動、隔離中の健康観察などを対応する。なお、自宅が決まっていない新規駐在員の入国者などの対応は市政府が行う。また、上海以外の都市へ移動する場合には、上海で3日の隔離を受け、その後は行き先の省が手配する専用車で移動して、隔離を受けることもある。                

                                           ▲ 浦東空港で隔離ホテルの

                                              指定を待つ到着客

厳しくなった隔離措置

 本年5月15日までは、14日間のホテル隔離期間中に2~3回のPCR検査を受けて、検査結果が陰性であれば、自宅に戻って出勤も問題なく出来た。しかしながら、14日間の隔離後にコロナが発症する事例がいくつかあり、14日間の隔離に加え、7日間の自宅健康観察が義務付けられることになった。健康観察期間中は、公共交通機関の利用や人の集まる場所には行けず、期間中に2回のPCR検査を受けなければならない。地区によっては家の玄関ドアを開けるのは1日3回までという誓約書を求められることもある。このような入国後の14+7日間の隔離措置は、輸入型感染から市中感染が発生しないようにするために厳しく実施されている。

 

国内移動も厳しい

 中国ではスマートフォンの位置情報による感染リスク地域の訪問履歴を管理する健康コードがある。国務院が全国的に管理するものが「行程码」、また、各地方政府が管理するものが「随申码」なっており、WeChat(微信)やAlipay(支付宝)と紐付けされている。携帯電話番号、WeChat、Alipayは全て実名登録制で管理されており、2週間以内に高リスクエリアにいた場合には赤色、中リスクエリアの場合は黄色のQRコードが表示され、感染リスクエリアではない地域の場合には緑色で表示される。この表示が赤または黄色の場合には省を跨ぐ移動はもちろんであるが、公共交通機関は利用できず移動に大きな制限がかかる。

 中リスクエリアを有する上海から他省に行く場合には、自身は中リスクエリアに入っておらず健康コードが緑色でも省・市によっては48時間以内のPCR検査陰性証明がないと新幹線の駅や空港から市中に入れない場合があるなど、都市によって独自に規制を厳しくしている場合もある。

 

濃厚接触者の接触者もPCR検査

 例えば、上海では市中感染者が居住していた浦東空港近くの一部の住宅エリアはが、中リスクエリアに指定され、同地区の住民は数千~数万人単位でPCR検査を受けることになる。そこに数時間でも滞在していると健康コードは黄色に変化し、それが2週間続き、その間は公共交通機関の利用はできず、オフィスビルなどにも入れなくなる。さらに、感染者の行動履歴から、感染発覚以前の感染者が利用したタクシーに、後から乗車した乗客がタクシー料金をスマホで支払っていたので、その履歴から追跡されてPCR検査をすぐに受けに来るように連絡が来たという事例や、濃厚接触者になったことを知らずにオフィスに出勤して、そのオフィスビルで動き回ったエリアの人やフロアの全員がPCR検査を受けたという事例もある。

 このように一人でも感染者が出るとその行動履歴からさかのぼって濃厚接触者を特定、さらに濃厚接触者の接触者を含めて地域全体でPCR検査を実施して、感染の拡大を防ぐというとてつもない労力をかけている。 

 

日本から入国して10日目は、随申码はまだ赤いQRコード.jpg直前2週間は高中リスクエリアに行ってないことを示す緑色の随申码のQRコード(Alipay).jpg

直前2週間は日本にいたので中リスクエリアにいた黄色を示す行程卡.jpg

▲ 日本から入国して10日目は       ▲ 直前2週間は日本にいたので       ▲ 直前2週間は高中リスクエリアに

 随申码はまだ赤いQRコード       中リスクエリアにいた黄色を示す行程      行ってないことを示す緑色の                                       

                                           随申码のQRコード(Alipay)

 

 

世界の感染状況と乖離

 中国では、感染者からその先に感染しているかもしれない人を見つける努力と合わせて、ワクチン接種を進めることで、新型コロナを抑え込んでいる状況である。昨年の4月には、最初に感染が拡大した武漢市のロックダウンが解除され、その後の経済成長は順調に回復した。一方で、世界各国の感染状況は日本をはじめ、これまで感染が少なかったベトナムなども感染者拡大に苦しんでいる。さらに、インドやペルーなどでは集団免疫を獲得したかもしれないと言われるほどである。

 コロナフリーに近い中国では、中国にいる限りは感染するリスクは非常に低くなっているが、来年には北京オリンピックも開催予定である。国を跨ぐ移動の制限や入国者に厳格に3週間の隔離状況を強いる。

 中国が、これから先withコロナの中国以外の国との人の移動にどのように対応していくのか大変興味深いところである。コロナによるデカップリングが現実味を帯びてきているように思われる。

 

(上海日本商工クラブ 事務局長 中村 仁)