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【最新海外事情レポート】香港、法の支配(Rule of Law)(香港)

  「法の支配」を辞書で引いてみると、「専断的な国家権力の支配を排し、権力を法で拘束するという英米法系の基本的な原理」と記載されている

 

  World Justice Projectでは、世界各国の「法の支配」の実態を年次報告書「法の支配インデックス」として公表している。本報告書の最新版(「法の支配インデックス2019」)が公表した、「法の支配」指数スコアとランキングでは、デンマークが0.9ポイントで第1位。 2位以下は欧州勢が続き、英国は、0.812位、日本は0.7815位、米国は、0.7120位、香港は、0.7716位となり、香港における法の支配は、世界のトップクラスとみなされていることが窺える。

 

 一方、昨年2月に発生した事件が、香港の政財界や市民を揺るがしている。

 

 この事件は、201828日、男子学生(当時19歳、元短大生)と女子学生(当時20歳、教育を学ぶ専門学校生)の香港人カップルが、台北に旅行に行ったが、同年217日に香港に戻ってきたのは同男子のみで、女子学生の家族は、行方不明の捜索願いを警察に提出したもの。その後、香港のATMより同男子が、女学生の銀行口座から現金を引き出したことが発覚し、窃盗で逮捕された。312日には、スーツケースに入れられた女学生の死体が台北で発見された。台湾警察は身柄の引き渡しを要望しているが、香港では、マネーロンダリングの罪状で収監されたにとどまり、本年10月には、出獄される見通しである。

 

  香港の法体系では、香港人が国外で起こした犯罪を香港では裁けないとされている(ただし、テロやテロに関連する金融犯罪は例外)。殊更、中国、マカオ、台湾とは、1997香港返還時点から特段規定を設けていない。したがって、同男子が10月に出獄した場合、香港政府は香港外への脱出を止められなくなる懸念がある。

 

  以上のような背景から、香港政府は、「犯人引き渡し及び協力条例(Fugitive Offenders Ordinance & Mutual Legal Assistance in Criminal Matters Ordinance)」を、立法議会に提出した。現在、香港と引き渡し条約を結んでいる国は、米国、英国など20か国(日本は未締結)、協力協定は日本を含む32か国と結んでいる。香港のビジネス界や一般市民は、中国中央政府の犯人引き渡し要求があっても中国には渡されないとの安心感が現在あるようだが、経済界からは、経済犯の除外や懲役が重い7年以上の罪状とするなど、条例を修正するよう陳情を行い、政府も同意を示している。今回は、7月末に立法議会が休会になるため、香港政府は本条例の可決を急いでいるが、公聴会の期間が短く、外国商工会議所から不満の声が上がっている。

 

  改正条例案では、中国本土を含む香港外から犯人引き渡しの要請があっても、例えば、政治犯は除く、香港でも処罰される犯罪に限る、死刑を除く等7項目の条件をクリアし、かつ法務部が可否を審査したうえ、最終的に、行政長官が判断を下す。また引き渡し対象者は、最高裁判所まで3審制度で提訴し引き渡しの差し止めを求めることが可能。なお、香港では、過去20年の間、218人の犯人引き渡し請求があり、109人が引き渡された。圧倒的多数は、68人の米国である。犯罪は、麻薬関連が38事例で最大となっている。前述の「法の支配」が、一国二制度の香港では有効であることをどうぞご記憶いただきたい。

 


写真は、マカオ珠海香港大橋。写真中央の奥は、マカオの中心部。経済では一体化構想が進むが、中国の法体系には、香港では警戒心が強い。

 

                           (香港日本人商工会議所 事務局長 柳生 政一)